『文房具と煎茶』展。これほど直球な煎茶の展覧会もまずないと思い、昨日は急遽、京都まで足を延ばし泉屋博古館に行ってまいりました。祝日の京都は人出も多いかなと覚悟しておりましたが、確かに京都駅周辺は大変な混雑ぶりでしたが、地下鉄蹴上駅を降りて南禅寺、永観堂、鹿ケ谷地区はそれほど観光客も多くなくゆったり京都風情を楽しむことができました。
泉屋博古館は、財閥住友家のコレクションを中心に所蔵する博物館ですが、その15代目当主住友友純(ともいと)は、煎茶愛好家であり数々の銘品を所有しておりました。今回の展示もそれらが中心になっています。また中国の青銅器を最初に収集したことでも有名であり、大阪の住友家本邸(現在の天王子公園)で催された、煎茶会では数々の書画、銘石、文房具などとともに中国渡りの青銅器が並べられ展観されました。煎茶席ではこのような展観席が付くことがよくあるのですが、これは今日の博物館の役割を担いその走りといえるでしょう。
友純は煎茶を愛好したのは、実家の公家徳大寺家の影響もあると思います、当時の公家は茶の湯よりも煎茶を愛好していたといわれます。友純の実兄には西園寺家に入り、のちに首相となり最後の元老と言われた西園寺公望がいます。
三五夜に掲げる西園寺公望の扁額『日進月歩』
展示は7つのテーマに分かれていて、初席『清風をもとめて』、第一席:古銅器・古鏡展観席『文人、古代に思いめぐらす』、第二席:瓶花盆栽展観席『文人、自然の気にであう』、第三席:近代文人画席『近代人、古の文人にあこがれる』、第四席:中国文房具展観席『文人、道具にこだわる』、第五席:近代文人書画展観席『文人、余技にあそぶ』、第六席:煎茶席『文人、清風に吹かれる』、の攻勢になっていおりました。みなそれぞれに見ごたえ十分の品々でしたが、煎茶席の瓶掛けに青銅器の鼎を用いるとはさすがに驚きました。その他にも、宜興の茶銚の名品「萬寳順記」や明代の器局、田黄の印材、太湖石、明末清初の染付の煎茶碗、初代三浦竹泉に注文した「春翠茶寮」と書かれた煎茶碗など見事なものでした。監修は、今や煎茶界ではその知識で右に出る人はいない、一茶庵宗家佃一輝宗匠。いやー、大変勉強になりました。
泉屋博古館を後にして、次は近くの野村美術館の『茶道具と花見』展ももよりました。こちらは茶の湯の道具が主の展示。ただし、茶の湯では茶室の中に生命のあるものは茶花くらいしか残さないこともあってか、花をモチーフにしたものは少ないのは否めないところ。棗や香合などの花モチーフをなんとか取り合わせて展示している感じでした。煎茶と茶の湯の違いがこれほどはっきりわかるという意味では両館見比べるのもいいかもしれません。
野村美術館はそのくらいにして、あとは疎水沿いをそぞろ歩きしながら、地下鉄の駅まで。水量たっぷりの疎水の水音を聞きながら、水路で餌を啄ばむ鴨に心を和まし、今が盛りと言わんばかりに咲き誇る白木蓮の花に魅入り。少し湿り気のある空気に甘い香りを周囲に漂わせるこの雰囲気。奈良は奈良でその良さもありますが、やはり京都も良い。あー、京都にいるな~と嬉しくなるひと時でした。
雅な京都の雰囲気を存分に楽しめた一日でした。