もう2021年も半年が過ぎました。未だ警戒を緩めることが出来ない世の中の状況で、5月の名古屋の古橋尚先生による特別茶会「白洲正子によせて」は秋に延期。6月の月釜も隣府県で緊急事態宣言が発令中であったことから状況をみつつ、最終的に6月27日(日)の1日のみ開催ということ決行いたしました。
三五夜も持ち味を最大限に楽しんでいただける月釜とは何だろうと、一カ月の空白の期間いろいろと考えておりました。その合間には、一階茶室横の縁側廊下部分に玄関から直接出入りできる入口を改良工事で作った効果から、この空間は小待合として活かすことができるようになりました。三五夜の持ち味はこの少人数で亭主と客が親しくお茶とお菓子を楽しんでいただける空間の良さであり、少し贅沢な時間の過ごし方ではないかとの一つの仮説を立てました。6月の月釜はその仮説を信じて設えおよびお茶、お菓子の準備をいたしました。
今回のお水は奈良東部山間部田原地区の長谷に住む写真家の小豆澤 浩子(@nekoanazuki )に汲んで来ていただいた塔の森のお水です。そして今回のお茶は、京都のtea stand YUGENさん ( @yugen_kyoto )の『3』。何とも無機質な銘柄ですが、そこはその会の趣向や席主のもてなしによって決めて欲しいとのYUGENさんの店主さんの意向との事。今回もご銘を考えようかと思いましたが、来るお客様に今回の想いや気分をご銘にしてもらえたらと思いあえて付けないでおきました。このお茶は以前、私の茶の湯の師匠とご一緒にうかがった東越会さん( @touetsukai_cyanoyu )で頂いたお濃茶がとても印象的で美味しかったから(多分お練り具合もよかったのでしょうが)、三五夜の茶会でもと思ったからです。 塔の森のお水で沸かしたお湯はとても柔らかく甘さも感じ、お濃茶も香り高くコク深い美味しいお茶でした。今回お越しのお客様にも好評でした。主茶碗に使った湊焼の赤楽と緑のコントラストもよく映えました。 お菓子は奈良で水無月を出す時には必ずと言っていいほど使わせていただきます『おくた』さんのご製。お干菓子は、私が今まで食べたコハクで最も美味しいと思っている、円山公園内にある茶菓円山 ( @sakamaruyama )さんのショウガのコハク。サクッとしながら中はぷるんとした食べ応えが最高です。 濃茶の後に薄茶二服お客様にお出ししますが、二種盛りにしたお干菓子を食したお客様には、二服目にに金平糖を今京都で作陶展を開いておられる、奈良柳生の井倉 幸太郎( @koutaro.ikura )さんの青白磁の酒杯に紫陽花の様な色合いでお出ししました。
そして本席に入るまえのお楽しみはん2年ぶりににじり口に茅の輪を設えました。にじり口の横が新しく設えた出入り口、小の待合としても機能しています。
さて本席に入っていただいてお茶がはじまりました。柄杓を蓋置に引き「どうぞお楽に」。そこにもう一つ小さな茅の輪がありました。これは三五夜のプレミアム茶道教室にはるばる和歌山から通っておられ生徒さん @sou.wa2020 さんの手作りの蓋置です。若い頃から表千家の茶道を修めてすでに高位の免状もお待ちなのですが、もう一度きちっとした作法を習いたいと、三五夜のプレミアム茶道教室で講師を務める表千家教授の堂後宗邑( @kibunegiku1008 )先生の門を叩き師としてお稽古を再開されました。もともと修めておられたのでお稽古にもご熱心に通われておられる優秀な生徒さんのお一人です。 一方、嗜みとして作陶やっておられるのですが、先日snsで投稿されたこの茅の輪の蓋置を私が見てこの月釜で使わせてもらえないかと頼みましたら快諾してもらえました。 しつらえとしてて桑小卓を使う予定でしたから、棚下に平建水を納める時に引っかからないかと心配しましたが、偶然なのか計算なのか問題なく納まりました。 お席でもお客様の注目の的となり、にじり口で茅の輪をくぐってもらった後、本席でも茅の輪の蓋置を拝見に回して皆さまにもう一度祓えをしていただきました。なんとも愛らしい茅の輪の蓋置のおかげで席の最後まで心和んだ一時でした。sou.wa2020 さんありがとうございました。来月のお稽古もよろしくお願いします。
最後に今回の本席のお軸は、この時期ならではの表千家十三代家元即中斎書及び在判の『緑水青山』をかけさせていただきました。
この言葉は中国唐時代の禅僧である龍牙隠遁禅師の詩句から採られています。原文と読み下しを見てみましょう。
木食草衣心似月(もくじきそういこころつきににる)
一生無念復無涯(いっしょうむねんまたむがい)
若人居何処住問(もしひときょいずれとこにすむかととわば)
青山緑水是我家(せいざんりょくすいこれわがや)
【意訳】木の実を食べ草の衣を着て生活すれば、自分の心も月と同じようになる。一生は念無くして またかぎりも無い。もし誰かから住まいは何処かと問われたら、即座に青山緑水(大自然)が我が家と応えよう。煎茶道をを長くやっていて漢詩は煎茶と深く関係がある事もあってこの詩句は私の好きな詩句の一つです。今の時期にぴったりとの事もありますが、やはり茶の湯ま煎茶も元の思想は同じであると言えるのではないかと思います。三五夜はこれからも煎抹両道のお茶の交流の場でありたいとの願いもあります。今回のお水は先にも上げさせてもらった通り、奈良東部山間部の田原地区長谷にある白洲正子ゆかりの地「塔の森」から湧き出るお水を写真家で長谷に住む小豆澤浩子さんに届けていただきました。 小豆澤さんの撮られたお写真からその田原地区の一枚を見るとまさにそこは仙境の地の様です。奈良の大自然の奥深さを改めて知る事になりました。
後日、小豆澤さんからお聞きしましたが、この風景実は白洲正子が見た目線と同じなんだとか!数十年前で木の応茂り方などで視界は大分変わっているとのことですが、向こうの山々に風景は白洲正子が見た風景と寸分違わぬものです。
再出発となった水無月の月釜、久しぶりにお越しの方から「ようやくお茶も楽しむことができるようになりましたね」と温かいお言葉もいただきました。小待合で三五夜の坪庭を眺めながら、待合にかけられた掛物も見、本席を待つ小間の茶室で4客様のみ亭主自ら一服一服お濃茶を練り、薄茶を点てる、お道具、お菓子を楽しんで頂ける。決して目を見張るような茶道具はありませんが、アイデアとお茶、お菓子には妥協しない、お客様と亭主の楽しい会話に心を和ませる。お値段以上(どこかできいたフレーズですが)の価値を感じて頂いていただければこれ以上の幸いはないと感じております。
三五夜の水無月の月釜無事に終了しました。久方ぶりにお会いした方々、初めてお越しの方々、再開を心待ちにしてお越しくださいました方々、三五夜の月次の茶会の在り方に対する店主の考えにご理解くださいまして誠にありがとうございました。皆さんの笑顔とお茶とお菓子、趣向を楽しんでいただける姿とてもうれしかったです。重ねてありがとうございました。さて私事ですが、第一回目のワクチン接種も月釜の翌日に完了しました。体調も至って快調です。7月の茶道教室も順調にこなしております。奈良も観光業に力を入れてくださっているので早めに接種できる事は大変ありがたい事です。そして二回目の接種が7月の四連休前に済みます。
四連休の初日22日は香道泉山御流様の組香の会、翌日23日、24日は三五夜の文月の月釜、25日は雅楽教室と立て続けに行事が続きますが、お越しなられるお客様に、感染予防対策の効果を発揮できる事ができ、私としても安心してお迎えができるようになります。8月以降も様々なご提案などで遠方にも行く事が多くなりそうです。身体が資本のこの仕事、心と身体の健康を保ちつつ邁進していきたいと思います。三五夜の月釜再出発どうぞ皆様温かいご声援をご支援を。そしてぜひ月釜にその他三五夜のイベントにもお越しください。