先日の3月15日(日)、東大寺修二会満行の日に三五夜で執り行いました弥生の月釜『奈良からの祈り』茶会、無事に終了しました。世の中が新型コロナウィルスの感染拡大によるイベント自粛ムードで多くのイベント(大寄せ茶会を含む)が中止となる中、我々の三五夜の月釜はもともと少人数完全予約制でしたのでリスクは少ないと判断し通常通り粛々と進めました。
今回は東大寺二月堂の修二会満行を迎えた日でしたので、趣向もお水取りを。待合の七尺床には、東大寺第206代別当上司海雲師の『七難即滅七福即生』の掛物と、修二会で使われた糊こぼしの造花を椿の枝に付けて、東大寺宝物の写しである鞨鼓胴の花生に生けました。これはある資料から見た修二会で実際に行われている供華を参考としました。
また隣の朱の四脚盆には、東大寺僧侶で日本画家てもある中田文花さん制作の差懸(入堂する練行衆が履く特殊な下駄)のミニチュア、今回用いた和菓子屋さんでお借りした、さらに古い時代の糊こぼしの造花、12日のお水取りの日にいただいてきたお松明の残り炭を飾りつけ、江戸期の大和名所図絵の木版画を額に入れて添えました。
二階ギャラリーでも、東大寺歴代管長の色紙を販売し、東大寺一色となりました。三五夜お馴染みの香煎は「桜香煎」。桜の塩漬けにお湯を注ぐと、パッと薄いピンクの桜色の花びらが開き、「お水取り画終われば近畿にも春がやって来る」の言葉通りの趣向として、一階の茶室に入っていただきました。
本席では修二会に相応しい奈良物に合わせて、千家の侘び茶に相応しいお道具との取り合わせとしました。濃茶器は真塗り中棗を包み袱紗で、薄器は碁器(白鳳庵の花押と朱書きで「和楽」あり)、茶杓も白鳳庵の花押のある竹の中節を模った天平古材の木杓。掛物は兼中斎の『春風吹花中』、二月堂の焼印のある根竹の一重切花入に椿一輪としました。白鳳庵とはかって「薬師寺の鬼」と言われた、橋本凝胤和尚の事で薬師寺再建に大きな功績を残した高田好胤和尚の師にあたります。東大寺二月堂の修二会が終わると、4月は薬師寺での修二会別名「花会式」が始まります。東大寺から薬師寺へと祈りは続きます。今年は薬師寺東塔の解体修理が終わり落慶法要が執り行われますので、碁器は千家の侘び道具とは言い難いとの事ですが、奈良の三五夜の月釜らしいお道具として薄器として使わせていただきました。
主菓子はやはりこの時期らしい奈良の椿のお菓子、萬々堂さんの「糊こぼし」、干菓子は老松さんの煎餅と、中西与三郎さんの桜花の型抜きと、枝と蕾に見立てた”すはま”を特別に作っていただき、黒柿の扇面盆を佐保川の流れに見立て「さほひめ」としました。
二階の待合(前の投稿をご覧ください)が、華々しい荘厳されていますので、本席はしっくりとまとめて対比としました。五名様のゆったりとしたお席でしたので、落ち着いて席でゆったりとした時間を楽しんでいただけたかと思います。
今回は、感染リスクを抑えるため出来得る限りの対策を立てました。まずは、通常よりもお客様とも距離を保つための一席あたりの定員数を減らし、濃茶の回し飲みを止めて各服点てとし(一人一碗ずつ濃茶を練りお出しする)、道具の拝見は回さず飾り残しとしました。また、入り口にはアルコール消毒液を設置、トイレにもアルコール性のウエットティッシュ、石鹸、待合と茶室にはウィルス除去もできるS社の空気清浄機を設置しまさた。茶会進行中にも、濃茶と薄茶の間に茶室の窓や障子を開けて換気を行いました。お店として出来る限りの対策を立て、またご来席の皆様にも手洗い・アルコール消毒の徹底と咳エチケットをご協力いただきました。皆さまのご協力の甲斐もあって無事終われたこと本当に感謝いたします。
まだまだ予断を許さない状況ですが、過度に恐れる事なく、国や保健機関の呼び掛ける公衆衛生上の注意点に真面目に向き合う事で対策はある程度できるのかと思います。来月も11日(土)12日(日)と、岩手の裏千家准教授で古美術収集家の浪坂先生(三五夜の月釜の監修をお願いしているお二人の先生のうちのお一人)が、美術館クラスの数寄道具で釜をかけてくださいます。11日(土)①10時②12時半③15時(満席)の三席。12日(日)①10時②12時半③15時の三席、定員は今回と同じ五名様(定員に達し次第キャンセル待ち)となります。濃茶各服点と薄茶ニ服、上生菓子、干菓子付きです。今回は特別素晴らしいお道具が出る特別茶会となりますので、会費はお一人様5000円となります。どうぞ、来月もご参加お待ちしております。