少し日が経ちましたが、先日23日(日)、三五夜の葉月の月釜無事に終了しました。 8月は暦の上では秋ですが、まだまだ夏の盛り。そして内陸の盆地である奈良の夏の暑さは格別です。今回は三五夜の一階の四畳半の茶室と続きの六畳の部屋の襖を取り外し一室とし、そこに表千家十三代即中斎が考案した扇型立礼卓を据え、お客様も椅子席に小卓とリラックスしてお過ごしいただきました。二階の八畳間の座敷は待合とし、床には南国育ちの芭蕉の葉、床前の一畳には赤穂段通を敷きその上に奈良でも透明な氷を作ることで有名な日乃出製氷さんの氷柱を置きました。真夏の陽光を芭蕉の大きな葉で遮りながら、氷室から取り出した氷で涼を楽しむ。今なら冷蔵庫はどこの家庭にもある現代では満ち溢れた家電製品ですが、製氷技術のない昔は真冬に氷を切り出し氷室と呼ばれる穴蔵に夏まで保たせ、天皇や貴族、将軍や大名、そして一部の大商人にしか許されない、氷は非常に貴重で贅沢なものでした。今でこそ氷を眺めるだけでは涼を感じる事など出来ないでしょうが、真夏に貴重な氷を眺め涼を感じた昔の人々の想いを少しでも偲んでもらえたらとの趣向でした。



さて、本席の床は以前の西大寺管長松本実道師の「風颯々水冷々」に金魚の画のある軸。軸の前には「東大寺」「西大寺」「大安寺」の奈良で「大」つく三つの寺院のトップの染筆による「大」の字の団扇。これは奈良でも8月15日に行われる「大文字焼き」保存会が毎年つくる団扇を飾りました。京都の五山の送り火は今年は残念ながら小規模で行われたようですが、奈良の大文字焼きは規模こそ小さかったようですが、ちゃんと「大」の字に見る事ができました。来年は京都も奈良もいつもと同じように行われるようにとの祈りも込めました。
松本実道師は西大寺の他にも生駒宝山寺、般若寺などの住職も務められ106歳という長寿を全うされた奈良の高僧として有名です。金魚の図は作はだれかはわかりませんが、夏の涼やかな雰囲気を感じさせる画としても良いものです。また金魚は、中国明代に品種改良されて、上は皇帝から高級官僚、北京や江南の富豪が鑑賞したといい、「金魚」の中国語読みが「チンユイ=金余」と同じ事から、富貴を呼び込むおめでたいもとのして大人気となりました。日本には江戸初期に中国から徳川将軍家への献上品として入ってきたのち、中国と同じく大流行しました(室町末期に入っていたとの説もあり)。有名なのは大坂で名高い大富豪の五代目淀屋辰五郎が、自身の豪邸の座敷の格天井を水晶かガラスの透けるものにし、そこに金魚を泳がせたと言われるものです。ちなみに、現在淀屋橋と名のつく橋が大阪御堂筋の中之島にかかっていますが、淀屋辰五郎の邸宅前に私財を投じてかけて橋であったからだといわれます。江戸時代を通じて人気を誇った金魚ですが、大和郡山はその金魚の養殖を甲府から大和郡山に入部した柳澤家が奨励し、江京阪はじめ全国に売り広めました。誠に奈良に相応しい掛け物だったと思います。

お道具では、今回は現代のものや現在作家さんのお茶道具も使わせていただきました。三つ脚付きのクリスタルガラスの水指は旧西ドイツ製のフルーツポンチを入れたカットガラスに塗り蓋を誂えたもの、濃茶入れと蓋置には、大阪泉南で制作活動されている福西毅さんの作品を包み袱紗にて、薄茶の主茶碗には奈良の柳生で作陶されている井倉幸太郎さんの青白磁の芙蓉の花弁が花開いたような繊細で美しいお茶碗(亭主のAさん所持)を、その井倉さんは第二席目にお客様とした入っていただき点前後に亭主のAさんと所持する事になった思い出話しなどを対談してもらう一場面もありました。卓の背後に立て掛けた屏風についても、ご質問をいただきましたが、水墨の山水に関しては、田能村直外の「江山風月」と題したもの、もう一方の青緑山水は誰作かは不明ですが、描き込みの良さ岩絵具をふんだんに使ったものから気に入った物で、大阪の知り合いの古美術商笹舟屋さん( @sasafune16 )から譲っていただきました。本来は二曲一双で四季が描かれていたとますが、「春・夏」の一隻だけとなっています。 今回は表千家でしたかない扇型の立礼卓という珍し茶会、またご参加の皆さんも椅子で通常よりリラックスして楽しんでいただけたかと思います。お菓子も、奈良の夏の氷菓、柿と吉野の本葛を凍らせて、自然解凍で冷たさとぷるん&シャリとした食感を楽しめるその名も「柿こーり」。五條の柿の専門・いしいさんの御製でした。


いつもお点前兼亭主も務めて下さるAさんが会記を纏めて下さいましたのでご覧ください。
【 8月の月釜即中斎好み 扇形卓用いて立礼式でのお茶会】
二階待合大床間に芭蕉の葉投げ入れる日乃出氷氷柱として
床 風颯々水冷々 西大寺実道和尚三大寺団扇並べて
棚 即中斎好み扇形立礼卓
釜 瀟湘八景八角釜
水指 西ドイツ カメイガラス 三つ足ボウルを見立てて
濃茶入 ガラス茶入
茶杓 堀内宗心作 銘:涼風 筒箱共
濃茶碗主 黒平茶碗 寿楽作 銘:直心(じきしん)
副 赤平茶碗平茶碗 桂楽窯
数 赤膚焼天目形
薄茶器 井伊宗観好み十二ヶ月棗より 八画中次
主茶碗 井倉幸太郎作 影青芙蓉手茶碗
替茶碗 大の字茶碗時代も筆致も様々に
濃茶 丸久小山園詰 金輪薄茶 同 幽玄
生菓子柿こーり 石井製
干菓子くるみゆべし 大豆飴 西瓜型物など取り合わせて+





今月も満員御礼にて大変有難く存じます。来月の月釜は9月13日(日)14日(月)の予定ですが、すでにご予約でいっぱいとなっており、14日(月)の12時半に1名様のみとなっております。9月は私の茶の湯の師匠である表千家教授の堂後宗邑( @kibunegiku1008 )先生がお席を持ってくださいます。10月は11日(日)12日(月)の予定ですが、こちらは東北岩手の古美術収集家で裏千家准教授の波坂宗正先生の見応えのあるお道具で三五夜の2周年を、お二人の三五夜の月釜の監修に入っておられる先生が飾ってくださいます。10月もご予約でお席が埋まりつつあります(11日は満席につきキャンセル待ち)ので、参加ご希望の方はお早めにお申込みください。

今年は異例ずくめの一年、夏も終わりに近づき月釜が終わり週明け以降は奈良もほぼ毎日夕立があり朝晩はだいぶん凌ぎやすくなってきました。25日(火)には西の空は夕焼け、東の空には大きな虹が日没までの長い時間かかっていました。三五夜の屋上から暫し鑑賞。旧暦の七夕に大きく美しい天空の橋が現れたかのようでした。

片付けがひと段落済んで、三五夜の秘密の研究室(カウンター⁇)で月釜ではお汲み出しで皆様にお出しした冷やし飴にロックアイスを入れ口にしつつ、ふと思い付いてスピリッツを適量加えてビルドしました。安定のウォッカはビルドでも充分美味しいカクテルになります。サントリーのROKU GINは柑橘系の香りが冷やし飴のジンジャーともうまく合いそうですが、少し液体が凝固するようなので、シェイクの方がいいのかもしれないなど、色々楽しんでいます。コロナ渦の最中色々ありますが、三五夜は今月満2年を迎えます。更なるステップに向けて、色々と構想を練っています。お茶とお酒は切っても切れない関係かもしれないです。そんな事も考えながら色々な人のご意見やアドバイス、そして研究も積み重ねております。どうぞこれからも三五夜をよろしくお願いいたします。研究と称しながら飲み過ぎるといけないのでこのくらいでw
