10月の三五夜の月釜は、三五夜二周年記念茶会の第二弾として、月釜の監修もしております東北盛岡の裏千家准教授であり古美術収集家の浪坂宗正先生による月と名残りのお道具組みでの数寄を凝らした趣向で執り行いました。今回は浪坂先生がお持ちの非常に貴重なお道具をはるばる岩手からお持ち込みになり、いつも三五夜の月釜でお茶を点てています表千家のAさんがお点前をするハイブリットな三五夜らしいお席となりました。
また三五夜の月釜のお席では待合での汲出しに香煎をお付けしていますが、今回の香煎には森井商店の潮吹き昆布を湯で溶かした塩昆布香煎をお出ししました。森井商店の昆布は、かつては昭和天皇が奈良行幸の際、奈良ホテルにご行在の折に御膳に上がった銘品であり、奈良の名だたる料亭や料理屋は森井商店の出汁昆布を仕入れていたというお店でした。私の茶の湯の師匠の堂後先生( @kibunegiku1008 )も茶事の懐石などの出汁には森井商店の昆布を使っておりましたが、閉店と聞き先生と社中のAさんとともに、最後の買い物をしました。 先生が、奈良市役所がまだ猿沢池のそばの現在の「ならまちセンター」にあった頃は、この通りは商店街でJR奈良駅から市役所に勤める人たちの通勤路として賑わっていたそうです。市役所が新大宮に移り人の流れがなくなってからは、お店もなくなり商店街としての姿も消え失せたそうです。その最後の一軒ともいえる森井商店も時代の流れには逆らえずついに長い歴史に幕を下ろしました。 「奈良に美味いものなし」とかつての文豪が書いたそうですが、なんのなんの。奈良の美味い味の土台を支えていた銘店でした。 名残りの季節に名残り塩昆布香煎を味わっていただきました。
待合には松村景文の月に薄虫の図をかけ、本席の掛物は宙宝和尚の『明月佛清風』の軸。浪坂先生が、「このお席には待合も含めて五つの月がございます」との説明から皆さん出てくるお道具に隠された月を探す事もありました。風炉は本当に小さな時代を経たやつれに、中の雲龍を乗せて、しっとりと名残りの風炉を楽しみました 。
お菓子は、上生菓子が奈良の萬々堂さんの光琳菊。こちらは主の菓子器で使った仁阿弥道八の光琳菊の模様の器に映えるように、薯蕷の皮を紅色にしてお出ししました。萬々堂は奈良の春日大社の御紋菓を作る老舗の和菓子屋さんですが、お茶のお菓子も大変美味しく、今回の薯蕷饅頭も大変上品な味わいでした。 お干菓子には、岩手から浪坂先生がお持ちなった、松田屋さんの「岩手の山並み」と奈良の「柿寿賀」を二種盛りにし岩手と奈良の味を楽しんでいただきました。
また、今回は炭道具を飾り風炉の名残りと近づく炉の季節を炭で感じてもらいました。中でも、蒟醤の炭籠と青鸞の羽箒は見ものでした。 岩手の人らしく何事も控えめで独特の南部訛りが茶席に和やかなムードを醸し出したかと思うと、今年還暦とは思えないほどの力強い言葉で道具について語ったり、いつも我々がしている月釜とは一味も二味も違う格調の高いお席となりました。
お道具数寄には喜ばれる(二日目最終席では、茶入れ、棗、水指の中味を空けて全部、お客様に手に取っていただく事も!)、またお茶会の雰囲気が好きな人にも飽きさせない亭主ぶりが、大変勉強になりました。 ご参席の皆様も口々に「今の状況下、茶会が悉く中止になっている時に久しぶりに良い茶会に参加できました」と言っていただきました。
先月は、私の茶の湯の師匠でもある表千家教授で堂後茶道教室の堂後先生( @kibunegiku1008 )に記念茶会第一弾として掛けていただき、二ヶ月続けての三五夜の大きな茶の湯のイベントも無事終了しました。跡見では、浪坂先生がお茶を点ててくださいました。『清風、名月を払う』はまた、『明月、清風を払う』との対句となっています。どちらも主であり従でもない、客も亭主も立場は同じ、月にちなむ店名を持つ「三五夜」らしい月の茶会第一弾と第二弾、さて次はどなたに釜掛けて頂けるのか、堂後先生、浪坂先生は引き続き、来年はまた楽しみな事です。
11月の月釜は、もう炉開きです。現在のところ三五夜の炉は一階にじり口の四畳半の部屋にありますので、現況では密を避ける事が前提となり定員を5〜6名様までとさせていただきます。12月も同じくです。ただし、日程を三日間にいたしました。11月は22日(日)、23日(祝)、24日(火)です。時間は各日とも、10時、12時半、15時です。会費はお一人様3500円(濃茶各服点て、薄茶、上生菓子、干菓子付き)です。すでに満席近いお席もございますので、ご都合のつく方はお早めにご連絡ください。平日が狙い目でゆったりとしておりますのでどうぞよろしくお願いいたします。 お問合せはこちらまで。https://sangoya.shop/contact/
三五夜の二周年記念茶会第二弾二日目の朝、三条通りから御蓋山(春日皇大神四柱の依代)に霞雲たなびき神々しいお姿です。平城の古都は春日さんに見守られているのを実感する瞬間です。