令和二年の最後のイベントとして、三五夜で毎月行ってい月釜。師走の月釜が昨日三日間の開催を経て無事終了しました。 今回は万葉創作画家の奥山永見古( Emiko Okuyama )さんの万葉集を題材にした風炉先屏風を設えの中心に据え、そこから発想を広げてゆく趣向となりました。 柿本人麻呂の有名な歌「東の野にかぎろひの立つ見えて 返りて見れば月傾きぬ」と万葉仮名で書いた歌と、奥山さんの万葉創作画、席入りには本席を暗くして風炉先屏風をライトアップ、暁の陽光に照らされたかぎろいと、青白い月影をライトの色も変えて演出してみました。すると初日第一席に入られたお客様から、表千家十三代即中斎好みの溜塗小四方棚 の影が屏風に当たったてちょうど、お寺の柱と屋根のようになっていて、そこからかぎろひと月を眺めているように見えたとのお言葉を聞きました。想定外の事に席中に我々も見てみるとなるほどそのように!ちょうど東大寺二月堂の思わせるような光景に想定外の出来事を見いだす事が出来ました。

待合には、三足炉に煎茶で用いる素焼きの蕨手の五徳を据え南鐐の湯沸しを置き、冬の寒さを手あぶりで温めてつつ、香煎茶を差し上げる湯を沸かしておきました。待合掛けにも、奥山さんの万葉創作画の奈良らしい歌と絵の軸を使わせていただきました。




本席の持つ一つのメインは、奈良豆比古神社にあった樹齢1300年を数えたといわれ惜しくも昭和27年に枯れてしまった児手柏(コナデカシワ)の木から作られた香合を用いましたが、こちらには香合の裏に「奈良山の児手柏の両面に かにもかくにも侫人が伴」と彫ってありました。万葉の児手柏ですが、カシワの木ではなく、今でも定説がなく何の木かは定説がないといいますが、ヒノキ科の一種が表裏とも同じ様ではっきりしないところから、侫人(こびひと)と例えられてともいいます。また、奈良豆比古神社で毎年10月8日の夜に奉納される翁舞は能楽の原点ともいわれており、平成12年には国の重要無形民俗文化財に指定されてるいます。そので香合との関連付けの為に、横に翁面の帯留(市川鉄琅が白檀に刻)を添えました。 本席お軸は『光陰如箭 時不待人(こういんやのごとし ときひとをまたず)』「禅門諸祖偈頌」から。こちらは禅寺などで修行僧などがこもる禅堂などに戒めとして掲げる「生死は大事なり 無常は迅速なり」との対句となっております。今年はまさにその言葉通り、生死を身近に感じる一年であり、一生に一度あるかないかの忘れがたき年となりました。

来年は東の空に明るいかぎろひが立つが如く、佳き年になる様にとの思いも込めて、お菓子はいつも稽古に行っている堂後茶道教室の稽古終いにも食す栗善哉を御膳に乗せてお客様にお出ししました。 濃茶を各服で練り、薄茶のお干菓子には奈良桜井の智慧の文殊とも呼ばれる安倍文殊院の五芒星の押された落雁、そして松江の三英堂の季節のお菓子「季子ごよみ」の二種盛りで太陽・月・星の光を表現してみました。


コロナ禍でいろいろな事が起こったこの一年ですが、何とか昨日無事に終了出来てホッとしました。今年は四月のみ止むを得ず開催を中止いたしましたが、それ以外はやり通せた事に安堵すると同時に、毎月三五夜の月釜を楽しみにお越しくださる方が、また新しくお越しくださる方々が増えた年でもありました。何も見応えある道具が揃っている茶会ではありませんが、流派を問わずお茶を楽しまれる方々に喜んでいただける趣向をと、ない知恵を絞り頑張ってまいりました。皆さまのご支持のお陰にて今年も無事終えられた事に心より感謝いたします。来年はさらにご支持いただけるよう、いろいろ楽しみな趣向を凝らしてまいります。何卒来年も引き続きよろしくお願いいたします。 今年一年本当にありがとうございました。我が国および世界にとって、また皆さまにとって来年が佳き年である事を切に願います。 三五夜店主 敬白

